前の記事では、最終段で使われているJFETの2N5458の違いを見てみましたが、RATクラスタの方々で最も気になるのはそのオペアンプだと思います。
特にビンテージRATでつかわれているのはモトローラー製のLM308、そしてナショナルセミコンダクター社のLM308も使われ、最近ではOP07が使われています。
これらのオペアンプはどんな違いがあるのか、今回はオシロスコープで波形を観察してみました。
- RATのオペアンプだけをテストする回路
- テスト基板はこんな感じ
- テストするLM308とOP07達
- RATのオペアンプで音が違うのはスルーレートの違い?
- チャッピー君にスルーレート(Slew Rate)とは?聞いてみた
- リファレンス – Motorola LM308ANのオシロスコープ計測
- Motorola LM308AN #2のオシロスコープ計測
- リファレンス LM308の計測でいったんまとめ
- LM308 #3のオシロスコープ計測
- LM308 #4のオシロスコープ計測
- LM308 #5のオシロスコープ計測
- LM308 #6のオシロスコープ計測
- LM308 #7のオシロスコープ計測
- LM308 #8のオシロスコープ計測
- OP07 のオシロスコープ計測
- 8個のLM308と1個のOP070オシロスコープ計測まとめ
RATのオペアンプだけをテストする回路
この回路はRATの回路のオペアンプ増幅段を切り出したものです。

RATのオリジナル回路ではC16とR15と並行してもう1列のコンデンサと抵抗付けられていますがそれらを外し周波数特性をフラットにして観察します。C16を10μF、C15は560Ωしました。
そしてR3は4.62Kとしています。
このR3の抵抗値は手持ちのMotorola LM308に-10dbu(ピーク電圧約346mV)の信号で歪み始める時の実測の抵抗値で増幅率を計算すると、電圧比で9.25倍、db値は9.7dbとしました。
テスト基板はこんな感じ
オペアンプのソケットに各種LM308とOP07を差し替えてテストします。

このテスト基板はトーン用のポットを外しそこにピンを立ててオシロスコープのプローブを接続して計測します。

テストするLM308とOP07達

- Motorola LM308 ディップタイプ 2個
- Motorola LM308 缶タイプ2個
- National Semiconductor LM308ディップタイプ 2個(ラインが入ってるのと入っていないもの1個ずつ)
- National Semiconductor LM308 缶タイプ 2個(足が金色とシルバーの1個ずつ)
- Texas Instruments OP07
の合計9種類となります。そのうち3個はXでお知り合いの方のご厚意でお借りしていることになります。
で、これらの9種類のLM308をオシロスコープを用いてテストしていて気が付いたのですが、同じタイプ、同じ購入先のLM308でも著しく個体差が出ていました。
RATのオペアンプで音が違うのはスルーレートの違い?
RATの回路解説記事として最も参照にすべきなのはElectroSmashのProCo RAT解説だと思います。(他の多くのサイトはこの内容の派生に見えます)
でここに書かれているのはRATのオペアンプLM308やOP07の使い方の特徴は異様に高い電圧増幅率となっていることが示されています。
DISTORTIONツマミを全開時100kΩの電圧増幅率はなんと2305倍ということで、例えば100mVの入力信号が入ってくると230V(笑)になりますが、当然電源電圧が9Vですので±4Vあたりまでの増幅が限界となります。
そしてElectroSmashのProCo RAT解説ではオペアンプをこのように高い増幅率で使う場合に重要な性能指標はスルーレート値であると書かれています。
また、LM308のような古いオペアンプはスルーレートがそれほど高くないことが加わりRATの音の特徴として表れているということですね。
なので今回もチャッピー君にスルーレートについて聞いてみました。
チャッピー君にスルーレート(Slew Rate)とは?聞いてみた
オペアンプの出力電圧が、どれだけ速く変化できるかを表す性能指標です。
👉 単位は V/µs(ボルト毎マイクロ秒)
つまり
「1マイクロ秒で何ボルトまで出力を動かせるか」
という意味です。
オーディオで何が起こる?
スルーレートが足りないと👇
❌ 高域が歪む
- 特に大きな音量の高周波
- 矩形波・鋭いアタック
❌ トランジェントが鈍る
- ピッキングの「立ち上がり」が丸くなる
- 音がモコっとする
これを
スルーレート歪(Slew Rate Distortion)
と呼びます。
エフェクター的な視点(重要)
スルーレートは
音質劣化の原因にも、音作りの要素にもなる。
- RATや古い歪み系 → 低スルーレートが味
- ブースターやバッファ → 高スルーレート必須
なので
「高ければ正義」ではないんです。
だそうです、チャッピー君ありがとうございました(お礼)
で、補足で調べてみると、スルーレートは増幅率を高くするほど低下ようなので、まさにRAT回路の2000倍以上の増幅率ではかなり影響が出て来るということですね。
ということで、前置きがかなり長くなりましたが、今回の9種類のオペアンプはオシロスコープを使って、歪み始める前後の波形観察することにします。
リファレンス – Motorola LM308ANのオシロスコープ計測
比較のためにディップタイプのMotorola LM308ANリファレンスとして他のLM308/OP07のオシロ画像を比較するようにします。

リファレンス Motorola LM308 : 1KHz -10dbu/-12dbu
テスト信号として1KHz -10dbuと-12dbuの信号を入力します。

-10dbu入力を増幅するとプラス側はちょうど+4Vで飽和する兆しが見れます。またマイナス側も-4Vでギリ飽和する寸前でした。
これ以上ゲインを上げるとプラス側の方が早く飽和して非対称の波形になるようでした。
でこの状態で、冒頭の回路図のR3の抵抗値が4.62KΩということになります。
これ以降のテストはこの増幅率で固定して進めます。
-12dbu入力では見た目では歪んでいないですね。(実際は歪んでいますがw)
ということで回路の増幅率を固定し-10dbuと-12dbuのテスト信号を入力して異なる周波数でオシロスコープ画像を観察します。
リファレンス Motorola LM308 : 4KHz -10dbu/-12dbu
次に入力のテスト信号を4KHzにして観察してみます。-10dbuも-12dbuも1KHzの時とほぼ同じです。

リファレンス Motorola LM308 : 10KHz -10dbu/-12dbu
10KHzにしてみます。

-12dbuの入力では、ギリ正弦波を保っていますが、-10dbuの入力を増幅信号は三角波の形状に近くなっています。
これは高い周波数の信号に正確に追従できない兆候が出でいます。このように正弦波に追従できず三角波になるのがスルーレート低下の影響ということになると思います。
一方でプラスマイナス4Vまでスイングできていますね。
Motorola LM308AN #2のオシロスコープ計測
で、同じ仕入先から同時に購入したディップタイプのLM308ANをもう1つ同じテスト方法でオシロスコープの波形を観察してみます。
Motorola LM308 #2 : 1KHz -10dbu/-12dbu
おそらく同じロットの同じディップタイプのMotorola LM308ANですが、飽和電圧がわずかに低くなっていますね。

そしてプラス方向の方が飽和が大きいようで、リファレンスLM308と同じように非対称になる傾向があるようです。
Motorola LM308 #2 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHzも1KHzと同じですね。

Motorola LM308 #2 : 10KHz -10dbu/-12dbu
10KHzの入力では前のリファレンスLM308ANとかなり異なる波形になりましたね。

-10dbuでも-12dbuでもほぼ完全な三角波になりました。また出力電圧が±2.5V弱に落ちてしまいました。
これは、このLM308のスルーレートが遅く増幅できない状態になりつつあるということだと思います。
リファレンス LM308の計測でいったんまとめ
このように、おなじ型番、おそらく同じ製造ロット、同時仕入れしたMotolora LM308ANですがこのようにかなりの個体差があることが判りました。
よって、このメーカーが良いとか、缶タイプがどうのこうのなどステレオタイプ的見られると誤解が生じる可能性がありますので、残り6個のLM308については型番とタイプを伏せさせていただきます。
LM308 #3のオシロスコープ計測
三番目のLM308をテストします。
LM308 #3 : 1KHz -10dbu/-12dbu

リファレンスLM308がプラス側の飽和が早いのですが、このLM308 #3はプラスマイナスも一緒に飽和し始めるようです。(ほんのほんのわずかプラスの方が早くも見えますが)
LM308 #3 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHzになるとリファレンスLM308よりも-10dbu入力での増幅結果は少し三角波になりつつあります。

スルーレート低下の影響が表れているのでしょうかね。
LM308 #3 : 10KHz -10dbu/-12dbu
10Khzになるとまさにチャッピー君が解説されていたスルーレート歪状態ですね。

LM308 #4のオシロスコープ計測
4番目のLM308です。
LM308 #4 : 1KHz -10dbu/-12dbu
#3のLM308よりも更に対象に飽和しはじめる傾向が見えました。

LM308 #4 : 4KHz -10dbu/-12dbu
#3と同じく-10dbu入力での増幅結果は少し三角波になりつつあるように見えます。

#3と#4はここで、スルーレート低下がおこりつつ、飽和も起きているように見えるが面白いですね。
LM308 #4 : 10KHz -10dbu/-12dbu
これも4KHから怪しくなっていますので、10KHz入力には追従できないですね。

LM308 #5のオシロスコープ計測
5つ目になってしまいました!
LM308 #5 : 1KHz -10dbu/-12dbu
このLM308は明らかにプラス方向が飽和して非対称波形になっていますね。

LM308 #5 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHzでもやはりプラス側から飽和しますが、逆にスルーレートの影響は少ないようですね。

LM308 #5 : 10KHz -10dbu/-12dbu
-10dbではややスルーレート低下の影響が見えますが-12db入力ではかなり粘っていますね。

LM308 #6のオシロスコープ計測
6番目までやってきました、あと3個ありますのでしばしお付き合いくださいw
LM308 #6 : 1KHz -10dbu/-12dbu
これもプラス側がやや飽和する特性ですね。

LM308 #6 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHでも同様の傾向ですね。

LM308 #6 : 10KHz -10dbu/-12dbu
10KHzで-10dbuはスルーレートの影響がけっこうでていますが、-12db入力ではやや粘っているようですね。

LM308 #7のオシロスコープ計測
LM308はあと2個あります、、、
LM308 #7 : 1KHz -10dbu/-12dbu
こちらもプラス側からわずかに飽和はじめます。

LM308 #7 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHzでもこれはスルーレートの影響があまり見れませんね。なかなかバランス良い感じです。

LM308 #7 : 10KHz -10dbu/-12dbu
10KHzにおいても上下4Vまでスイングできていますね。-12dbu入力にすると歪が少ない感じです。

LM308 #8のオシロスコープ計測
やっと最後のLM308になりました、、、
LM308 #8 : 1KHz -10dbu/-12dbu
ほんの僅かにプラス側から先ですが上下で飽和が発生していますね。

LM308 #8 : 4KHz -10dbu/-12dbu
1KHzと同じ傾向が続いています。

LM308 #8 : 10KHz -10dbu/-12dbu
-10dbuでスルーレートの影響が出始めいますが、プラスマイナス4Vのフルスイングは可能なようです。-12dbuではスルーレートの低下も減って歪みが少なくなりますね。

OP07 のオシロスコープ計測
最後は今回唯一のOP07です。メーカーはTexas Instrumentsで、千石電商などでも購入が可能ですね。
OP07 : 1KHz -10dbu/-12dbu
おっと、OP07はマイナス側の方が早く飽和するようで、しかもその飽和もかなり早いですね。

プラス側は4Vまで余裕なのに、マイナス側は-3Vあたりで飽和しているようでかなりの違いがありますね。
OP07 : 4KHz -10dbu/-12dbu
4KHzも同じく、マイナス側の飽和がかなり早く表れるようです。

もしかしたら、OP07は単電源のオーディオ用としてはあまり向かないのかもしれません。しかし歪みペダルなのでこれが逆に良いとかw
OP07 : 10KHz -10dbu/-12dbu
-10db入力ではやはりスルーレート低下の影響が表れているようですが、結局マイナス側が飽和してLM308とは違う非対称の波形になっているのが面白いですね。

一方で-12db入力では正弦波の形状をとどめていますので、スルーレートはややLM308よりも良いのかもしれません。
8個のLM308と1個のOP070オシロスコープ計測まとめ
ということでRATで使いたいオペアンプとして5種類8個のLM308と1個のOP070をオシロスコープの波形観察で飽和状態とスルーレートを見てきました。
LM308の観察まとめ
- 同じメーカー/型番/形状/ロットでも飽和特性・スルーレート特性共にけっこう違う
- スルーレートが低いと言われるLM308でも比較的良いものもある
- ばらつきが多いので計測して選定する方が良い
LM308とOP07の観察まとめ
- LM308はプラス側の波形から飽和をはじめる
- OP07はマイナス側の波形から飽和をはじめる
- OP07の方が飽和の開始が早い
- OP07の方がスルーレートは高そうだが、LM308の中にはOP07と同等以上のスルーレートを持つものもある
元も子もないけど
で、こんなに長い記事を書いて最後の最後に元も子もないことを書きますが、、、、
RATの回路では小信号でもオペアンプでプラスマイナス4Vまで増幅しますがその後のダイオードでプラスマイナス0.7Vにクリップされるわけです。
よってオペアンプの特性の僅かな違いはあれどハードクリップによってばっさり違いが感じられ なくなるかもしれません。
ただ、LM308とOP07の違いはけこうあるようで、アタック時の飽和感や小信号になると(減衰時など)に違いが出てくるかもしれません。
ということでRATはMotorolaのLM308至上主義みたいなものがあるかもしれませんが、ちゃんとスルーレートや飽和特性を計測して選別したものを使わないと実は外れモトローラーというものが多いとも思いますが、まぁブランドのブラシーボで良い音になっている、、、のでも良いのかもしれませんね!!(当社比ですがw)

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