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’80ビンテージ MXR DISTORTION+ のコンデンサを計測して調べてみたら、セラコンは三重苦だった


DISTORTION+ ビンテージサウンドについてこれまでの検証の振り返り

ビンテージペダル ’80 MXR DISTORTION+が3台揃ったことで、これまでオペアンプ、クリッピングダイオードについて観察してみました。
その結果初期のオペアンプの特性、ゲルマニウムダイオードは共に現代のパーツとは少し異なる特性がありいずれも80年代ならではのビンテージディストーションサウンドを作っているのが個人的にはなんとなく判ってきました。

80年代のMXRのペダルにはセラミックコンデンサが使われていた

そして次に気になるのは皆さん大好きなコンデンサですよね。
まずは80年代のDISTORTION+の基板を見てみます。

これら3台共に、小容量のコンデンサは、セラミックコンデンサが、少し大容量のコンデンサはタンタルコンデンサが使われていますね。

で比較的新めのMXR Distiortoin+ではこれがフィルムコンデンサに置き換えられているようです。
https://www.electrosmash.com/mxr-distortion-plus-analysisより)

ということで、仮にビンテージサウンドというものがあるとして、セラミックコンデンサがどのように作用しているかについて考えてみることにしました。

セラミックコンデンサの分類を調べてみた>ClassIIは温度変化に弱い

でセラミックコンデンサについて調べてみます。

まずこちらのサイトのセラミックコンデンサの分類について。

この記事ではセラミックコンデンサの種類について説明します。
セラミックコンデンサは誘電体に使用するセラミックの種類と構造(単板or積層)によって分類することができます。

Via:セラミックコンデンサの種類と用途につい:

この記事によれば。

  • 一般的なセラミックコンデンサにはCalss I、Class IIの種類がある。
  • 更に形状について、単板型と積層型がある。

ということですが、MXR DISTORTION+に使われているのは、おそらく単番型のClass IIタイプのセラミックコンデンサということになると思いますが、その特性は温度による容量変化が大きい。ということですね。

Class IとClass IIでは同じセラミックコンデンサという分類ながら別物と考えた方が良いようですね。

Class II セラミックコンデンサは電圧変化にも弱い

次に、村田製作所のこちらの記事では回路上

こんにちは、みなさん。本コラムはコンデンサの基礎を解説する技術コラムです。
今回は、「静電容量の電圧特性」についてご説明いたします。

Via:村田製作所 – 静電容量の電圧特性

こちらの記事では、現代の積層型セラミックコンデンサに関する解説ですが、セラミックコンデンサのDCバイアス特性と、AC電圧特性についてはレトロなコンデンサほど大きく発生する筈です。

エフェクタの回路には9Vの半分の4.5V程度のバイアス電圧が掛けられている部分にフィルタコンデンサやカップリングコンデンサが用いられている場合が多くありますので、このグラフを見るとなんと数十%も容量が低下するということですね。

更に、AC特性の方ですが、ギターの電気信号のRMSは0.5V程度と仮定すると、上のグラフではちょうど音声信号の大小の変化と共に数%容量が上下に変化するということですね。

セラミックコンデンサは経時変化も大きい、エージング?つまり劣化?

よくオーディオなどでもエージングという言葉を耳にされると思いますが、まさにセラミックコンデンサこと、そのエージング(経時変化)が発生するということです。

高誘電率系のセラミックコンデンサ(X5R特性など)の静電容量は、時間の経過とともに低下する性質を持っています。この性質のことを「静電容量の経時変化(エージング)」といいます。

Via : セラミックコンデンサの『経時変化(エージング)』について

セラミックコンデンサを放置するだけで年間10%程度の容量が失われるということですね。

一方で電解コンデンサについても古いものが容量が変化すると言われていますが、これはエージングではなく寿命的なもので、セラミックコンデンサのように放置しているだけで大きく容量が変化するものでは無いようです。

セラミックコンデンサ(Class II)の特性まとめ>三重苦

ということで、ここまでのお話としてセラミックコンデンサの特性のまとめとして。

  • 温度によって容量が大きく変化する。
  • 電圧によって容量が大きく変化する。
  • 経年変化で容量が大きく変化する。

如何でしょうか?
特に80年代、つまり40年も前に製造されたペダルに使われているセラミックコンデンサはすべてが当てはまる正に三重苦、といった感じで表示されている容量に対し実際はかなり異なるのかもということが予測できます。

5台のDISTORTION+実機のコンデンサ容量を計測してみた。

なので、3台の80年台DISTORTION+と、デッドストックのセラミックコンデンサを使ったブレッドボード号、フィルムコンデンサを使って制作した千石号の5台の容量を実測してみました。

勿論パーツは分解することが出来ませんので回路上での計測ですが、5台とも同じ条件ですので傾向は判ると思います。

まず、入力のカップリングコンデンサの容量計測です。

80年代の3台が10%〜20%容量が少ないようですね。
これはやはり経時変化ということでしょうかね。いずれにしても3台が同じ傾向ですので、そういう可能性が高いと思います。

ただ、このカップリングコンデンサの容量が少々違っていたとしてもシミュレーション上はそれほど大きな違いは出ません。
しかし、実際にカップリングコンデンサの容量を少し変化させて音を出して相対ABテストを行うと、わずかに判別可能な場合もあります。(単体テストでは解らないカモですが)

次にオペアンプ部増幅の周波数特性を決める47nF(あるいは50nF)について計測してみました。

で、オペアンプのディストーション回路で重要なのはミドルのカマボコ型の周波数特性を決めるオペアンプ部のコンデンサです。
回路表記、また実際の部品表記では0.047μF/0.050μFのやつですね。
で、いきすぎ号が20%ほど容量が少なくあらわれました。これはいきすぎ号が一番タイトな音を出していましたのでその感覚と一致します。
一方で、ブレッド号では20%以上も容量が上振れしています。
しかし、後で動画に示しますが、このコンデンサを温めると60nFから30nFに50%以上も容量が減少することも判りました。
なので、これらの計測値は気温が変化すれば更に上振れ、下振れも発生しているということもセラミックコンデンサならではのかなりの個体差ということになると思います。

出力カップリングコンデンサについても計測してみました。

これはタンタルコンデンサについての検証となりますが面白い結果でした。
タンタルコンデンサは電解コンデンサよりも高性能だと言われいますが、いきすぎ号とデル号のESR(直流抵抗)がやたらと多いですね。ここまで多いと電解コンデンサよりも特性が悪いということになると思います。
残り3つのタンタルコンデンサは概ね同じような値になっていますが、それよりも1桁多いですね。

古いペダルはコンデンサの劣化や基板の腐食もみられた

おそらくこれはタンタルコンデンサの劣化ということになると思います。
というのも、最もESRが高いデル号のタンタルコンデンサの外観を見ると内容物が出て来ていました。おそらくコンデンサとして寿命寸前ということになると思います。
3つの80年台MXR Distortion+のタンタルコンデンサの写真を拡大してみます。

まずカバ号のタンタルコンデンサ(青色の2つ)は比較的フレッシュな外観をしています。

次に、いきすぎ号のタンタルコンデンサですが、右上の方の足に黒い付加物が見えます。

最後に、デル号のタンタルコンデンサの足にはおそらくコンデンサから出た内容物が付いているのが判ります。

ちなみに、この出力カップリングコンデンサの後に10KΩの抵抗がありますのでこれくらいのESRの増加ではほぼ音質に影響を与えることは無いと思います。

また、デル号については他の抵抗やコンデンサの端子に湿気と思われる腐食が見れました。(デルリン様の了承の元に記事にしています)
なので、皆さんもビンテージペダルをお使いの方は出来るだけ湿気が少ない環境にされた方がその後の寿命に影響があるかもしれません。

ビンテージペダルな方は基板の腐食対策も

所有者のデルリンさんがこんな素晴らしいアイデアを投稿されていました。

MXR DISTORTION+ のコンデンサまとめ

ということで、MXR DISTORTION+のコンデンサを計測して調べてみましたが、やはりというかコンデンサもビンテージサウンドへの影響がそれなりにあるということだと思います。

  • MXR Distortion+で使われているセラミックコンデンサは経時による容量変化、室温での容量変化、はいずれもかなり大きく回路に表記されている容量は当てにならない。
  • 更に、電圧での容量変化、音声レベルによる容量変化も発生しているので、実際の容量は常に変化している。
  • タンタルコンデンサにも腐食などによる経時変化による影響が見られる。

このように、ビンテージペダルの音色を比較して”年代別の違い”とか”個体差による違い”があるという話もよく聞きますが、物理的には単にそのような差で片付けられるような差以上のものがことこのMXR Distortion+には存在する可能性があると思います。

ということで、MXR Distortion+のクローンを作るぞと意気込んだとしても、このセラミックコンデンサのあまりにも気まぐれな特性があることから、回路図通り容量値のパーツを集めたとしてもほぼ同じ音になならない予感がします。
ましてや、ペダルを製作する場合あるあるだと思いますが、せっかくのDIYだからこそ高性能なコンデンサを採用するぞーと頑張ってしまうと更にビンテージサウンドから遠ざかる結果になることも十分に予測できます。

結局リファレンスとなる個体も含めて、そもそもブレブレである(例えば温度が違うと音も違って来る可能性)ということも十分に認識する必要があるとも思います。

なので、ことMXR Distortion+のクローン作りを目指す場合のコンデンサ選びはいかに不安定なダメダメコンデンサを入手できるか、更にその中から様々なパラメーターで計測した上でビンテージ個体の動きも予測した上で傾向に合わせて適材適所にセレクトし、最終的にはその違いを的確に聞き分けられる耳も必要ということだと思います。

MXR Distortion+の回路はかなりシンプルですが、これほどまでに奥が深いとは思ってもみませんでした。

付録:セラミックコンデンサと他のコンデンサで温度による容量変化がどれくらい発生するのかを計測して比較してみた。

セラミックコンデンサが温度に弱いということなので、せっかくの冬休みの時間を有効活用して、室温が下がった状態のセラミックコンデンサをホッカイロミニで温めながら計測する実験をしていました。
ちなみに実験用いたホッカイロは消費期限らしく、逆に40度程度(おそらくw)しか温度が上昇しないものなのも良い比較になっていると思います。

こちらの動画ですがいずれも約1分くらい温めた時の容量変化を観察しています。

1.0nFのセラミックコンデンサは13.5%容量が減少しました。

1.5nFのコンデンサは 6.3%容量が増加しました。

20nFのセラミックコンデンサは14.8%容量が減りました。

50nFのセラミックコンデンサは57.2%容量が減りました。これはすごいですね。フィルタ回路で用いると気温によって音の変化にモロ現れそうですね。

つぎにセラミックコンデンサの変化がいかに大きいかを比較するため、ポリエステル(マイラ)フィルムコンデンサ、ポリプロピレンフィルムコンデンサ、そしてオイルコンデンサも計測してみました。

10nFのWIMA フィルムコンデンサ(ポリエチレン・マイラ)を温めても容量hあ0.4%しか変化しません。

47nFのマイラコンデンサでも容量変化がわずか0.4%です。

120nFのポリプロピレンフィルムコンデンサに至っては、わずか0.02%の容量変化にしか過ぎません。

最後に、セラミックコンデンサと共にレトロな素材のオイルコンデンサにしても0.6%です。

このように、セラミックコンデンサがいかに温度変化に弱いかがお判りいただいたと思います。

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