TS比較!Ibanez TS808HW2 v.s. TS9 v.s. Maxon OD808 – ノイズを観察すると6dbブーストの弱点も見えてきた
前回までの記事でTS9、OD808、TS808HW2、これら3台のチューブスクリーマーの周波数特性とFFT解析を行ってきました。
次に前回のFFT解析結果を用いてノイズ特性も整理してみようと思います。
3台のバイパス時のノイズ構成まとめてみた
まず、バッファーの出力信号のFFT解析で6Khz以下にバッファー回路から発生しているノイズが観察できますので、拡大してみました。

このようにバッファードバイパスであるTS9とMAXON OD808は6KHz以下でノイズが出ていますが、当然ですがトゥルーバイパスのTS808HW2ではそのようなノイズは出ていませんね。
エフェクトON時のノイズ構成まとめてみた
次はエフェクトON時、DRIVE=5の6Khz以下のノイズ観察です。

TS9とOD808はバッファで発生したノイズがそのまま出ていますね。
一方でノイズレベルは増加していませんのでオペアンプのゲイン回路やトーン回路ではあまりノイズが発生していないことになりますね。
TubeScreamerの回路はバイパス時とON時のノイズの差が小さいのも特徴ということが判りました。
このようにTS9は40年以上も前のエフェクターが今でもポピュラーな理由の1つがこのローノイズであるというということもあると思います。素晴らしいですね。
で、ここで気が付いたのは、TS808HW2のノイズレベルが上がっていることです。
でTS808HW2はノイズが多い?
前のグラフを見るとTS808HW2のノイズフロアが5dBuから10dBuも高くなっていることに気が付きます。
次にFFTの計測画面で出るSNR(Signal Noise Ratio)つまりノイズ比を抽出してみました。

このようにSN比を比較すると、TS9とOD808は約60dbなのに対して、TS808HW2は約48dbですね。
で、その差は12db、つまり4倍もSN比が狭い(ダイナミックレンジも狭い)と結構大きい数値になっていますね。
TS808HW2のノイズフロアが高い理由を考えてみた
ノイズが高く見える理由としてやはりTS808HW2の最大の特徴である最終段での6dBのブーストが行われているということだと予測しました。
今回、原音と同じ音量に揃えるためにはTS808HW2のLEVELツマミをかなり下げる必要がありました。
つまり、いったんLEVELを下げた後にブースター回路で6dBが追加されていることから、ノイズフロアがその分アップしていることが考えられます。
TS808HW2のノイズフロアが高い理由を計測で確認してみた
ということでこれまでは出力レベルを原音に合わせるように調整していたのに対し、この計測では3台のペダル側のOutput Level=5に揃えて計測した結果を示します。
入力レベルは-12dBu、3台のTubeScreamerはDRIVE=0、Tone=10、LEVEL=5で計測してみます。
まずIbanez TS9です

MAXON OD808です

そしてIbanez TS808HW2です

これらの結果を表にまとめてみます。
Output Level | SNR | |
TS9 | -17.38dBu | 74,2dB |
OD808 | -17.96dBu | 71.6dB |
TS808HW2 | -12.26dBu | 71.8dB |
LEVELツマミを同じにするとSN比がほぼ同じになることを確認
TS9やOD808の出力レベルが-18dBuから-17dBuなのに対しTS808HW2は-12dBu弱ですので5dBuから6dB弱ブーストされていることになりますね。
IbanezがTS808HW2は6dBブースト回路を追加と言っているのに近い値が計測結果にも表れていますね。
それに対し、SNRの方は3台が近い値になってきましたね。
ということで3台のLEVELツマミを同じ位置にすると、SN比はほぼ同じような値になることが確認できました。
Ibanez TS9 / MAXON OD808 / Ibanez TS808HW2 倍音構成・ノイズ計測のまとめ
- 3台のツマミのセッティングを同じにするとTS808HW2の出力レベルは5dBuから6dBu高い
- バイパス音とエフェクト音を同じになるようにセッティングすると相対的にTS808HW2のノイズフロアが高くなる
- TS9とOD808は僅かにバッファ+電子スイッチのノイズが乗っている(聴き取れないくらい)
ということで、もしTS9やOD808をお持ちの方が、TS808HW2を導入された場合、みんなやっているようにツマミを全部12時に合わせてなどで比較された場合、おそらくTS808HW2の方が圧倒的にスゲー!ということになると思います。
とくに真空管アンプのようにコンプレッションによって倍音構成が豊かになるようなプリアンプの場合、6dB強くプッシュした方がダイナミックで官能的な歪が出てくることになる筈です。
で、逆にブースト回路があることを理解されたとして、TS808HW2のレベルを下げて使うと今度はSN比が悪化してしまいます。つまり宝の持ち腐れ現象が発生するわけですね。
Ibanez TS808HW2は他の2台とは使い方が違うかも

もしTS9のローゲイン設定でLEVELをフル10にしてもまだ足りないと感じている方、あるいは、Tubescreamerをリード時のブースターとして使われる方にとってはTS808HW2は最強のTubescreamerということになります。
一方で、クリーン主体でスルー音とTSのエフェクト音の音量を厳密に合わせるような使い方をされる場合は、知らないうちにちょっとノイズが追加(まぁあまり気が付かないかもしれませんが)されているかもしれません。
なのでこういう使い方で価格差を考えるとTS9やOD808の方が圧倒的にお買い得(しかもローノイズ)ということになると思います。
やはりオリジナルのチューブスクリーマーの設計は素晴らしい

ということで、振り返ってTS9の使い方を思い出してみると、ストラトの場合だいたいDRIVEが2くらい、LEVELが8くらいで真空管アンプをプッシュすると気持ち良い音になる(当社比)になると思います。
なので、6dBブーストしないでもまぁ使えますので、改めてオリジナルのTubeScreamerはローノイズで多彩に使えるオーバードライブとして絶妙の回路設計が行われているんだなぁということが判りました。(当社比)
TS9 1st Reissueは1990年という30年以上前のペダルですが、総合的にこれを超えるTubeScreamerがなかなか現れない(個人的感想ですが)というのもすごいですね!
ただ、最近は特にブースターが流行っていますね!
現在のハイゲインアンプにTSを使っても引っ込まないようにプッシュしてする為にはやはり6dBブーストする必要も出てきているのかと思います。
そしてそのようなトレンドに対応したTS808HW2も現代に合わせた新世代のTubeScreamerとして素晴らしい設計ということも感じています。


