FuzzFaceは何故鈴鳴りのクリーンサウンドを出すことが出来るのか(LTspiceシミュレーションで解ったこと)

通常、OverDriveが原音のニュアンスを残した歪み、Distortionが倍音がたっぷりで安定した歪み、というイメージなのに対し、Fuzzとなると、不安定で制御できないような深い歪み、というイメージだと思います。
しかしFuzzFaceの特徴として知られているのは、ストラトキャスターのようなFender系のシングルコイルでギター側のボリュームを絞るとクリーンな鈴鳴りサウンドになるということです。
前回の記事では、ギター回路をも考慮したLTspiceのFuzzFace回路にして、Fuzzノブを変化させたシミュレーションをおこなったところ実物と同じようにノブが9あたりが美味しいサウンドになるということが判りました。
そして今回はギター側のノブを変化させるというシミュレーションです。
その結果、良いFuzzFaceの特徴となっているギターのボリュームを絞った時に出る所謂鈴鳴りサウンドも再現できたと思いますので報告させて頂きます。
FuzzFaceはフラットな右肩上がりの周波数特性を持っている
まず参考サイトとしてリストアップさせて頂いたELECTROSMASHのFuzzFace分析の記事を引用させて頂きます。
下図はFuzzFaceのボリューム毎の出力特性を示したものですが、歪み系のペダルとは思えないリニアな特性を示しています。

ボリュームを絞った時はやや右肩上がりでちょっとややトレブリーにはなりますが、変なフィルタが掛かっていない素直な特性です。
そしてフルボリュームにするに従ってフラットな特性を示しています。
一方、下図がBigMuff Piのトーンコントロールの周波数特性です。
上のFuzzFaceのグラフと縦軸の内容が異なるので注意して頂きたのですが、このグラフで示されるのはBigMuffPiでは、トーンコントロールがどのような位置にあってもかなりクセのある周波数特性を示すということです。

下図もELECTROSMASHにアップされているTubeScremerの周波数特性ですが聴感上同様にベースとトレブルが大胆にカットされたカマボコな出力の周波数特性で設計されています。

以上のように、FuzzFaceは他の歪みペダルが大きく周波数特性を変化させていますのでボリュームを絞ってもこれらのクセがそのまま現れてしまうのに対し、FuzzFaceはフラットですのでボリュームを絞るだけで右肩上がりながらもリニアな音になるということが判ります。
FuzzFaceはギターのボリュームコントロールで様々な歪みを作ることが出来るというシミュレーション結果
そして、私のLTspiceのシミュレーションに戻ります。
ギターからの出力は800hzのサイン波で、FuzzFaceのFuzzツマミは9にしています。
グラフ上段が、FuzzFaceペダルの入力部の電圧
2段目が、トランジスタ初段の出力電圧
3段目が後段のトランジスタの出力電圧
4段目がペダル出力部電圧
となります。
まずギター側のボリューム0から5まではこのようにクリップされておらず、ほぼサイン波になっています。

ボリュームを6にすると、(黄色)初段のトランジスタが非対称クリップをはじめました。それと同時に(青色)後段のトランジスタも僅かにクリップを初めています。

ボリュームを7にすると、(黄色)初段がソフトクリップながら、波形の両側をクリップするようになり、(青色)後段が両側をハードクリップし始めます。
ボリューム6まで出力が非対称クリッピングだったのが、ゲインが上がるにつれて対象クリップになって行くのが判りますね。

ボリューム8で、(青色)後段がほぼハードクリップになりました。しかし未だ完全は方形波にはなっておらず、聴感上は原音のニュアンスが残っていると思われます。

ギターのボリューム9になるとほぼ方形波に近くなってきました。この時点で激しく歪んでいる状態ですね。

ボリューム10になると(黄色)初段のトランジスタもほぼ飽和状態になっていますが、完全に方形波になっていないのは、帰還回路によって歪みが制御されている状態つまりソフトクリップが継続されています。しかし後段はもう9Vの電圧を超えている状態、つまりハードクリップ状態になっていると思われます。

このようにFuzzFaceではギターのボリューム位置により2つのトランジスタの歪み動作が絶妙に同期してコントロールされているということになります。
ボリュームを5以下でクリーンサウンド、5〜8ではボリュームの位置に応じて微妙に異なるクランチモード、9以上ではより深く飽和したハードクリッピング音を楽しむことが出来ます。
FuzzFaceはクリーンでも多くの倍音を発生しているというシュミレーション結果
今度は周波数分解を示すFFTグラフも作ってみました。
横軸が周波数ですが、超感上は15kHz以外は聞こえ無いと思いますので、グラフの左半分の周波数分布に注目してください。
このシュミレーションではギターの出力音は400Hzで、FuzzFace側のFuzzツマミを9にしています。
そして上の波形シュミレーションはボリューム5以上でしたが今回はギターのボリュームを1から10に変化させています。
ギターのボリューム1ですが、すでに僅かに2次倍音の800hz、3次倍音の1200hzが発生しています。

ギターのボリュームを2にすると倍音が発生してきました。

ボリューム3ではかなり多くの倍音が発生しています。
ここでの出力電圧だけみると、ほぼ正弦波なのですがFFT処理してみると、歪み始めていることが判りますね。

このようにボリューム3、4、5で更に倍音が発生しています。
前の電圧グラフではボリューム5までクリッピングされていない状態でしたので、このあたりで倍音がかなり乗った所謂鈴鳴りな音が出ていると思われます。


そしてボリューム6以上では電圧の方のグラフではクリッピングを始めていますので、更に豊かな倍音が構成されていくことになります。
この辺りはディストーションサウンドが出るということですね。



そしてギターのボリューム9の時の倍音構成が劇的に変わるということです、回路的に共振しているということでしょうかね。
実際と同じように一番美味しいセッティングという感じです。

そしてギターのボリューム全開では、再び倍音がフラットに出ます。
ほぼ完全なハードクリッピングとなり、倍音だらけになっていることがわかりました。
音が潰れまくった所謂Fuzzサウンドということですね。

FuzzFace鈴鳴りサウンドの秘密まとめ
これらの結果から以下のようなことを理解しました。
- FuzzFaceは基本的にフラットな周波数特性を持っており、ギター側のボリュームを絞ることで若干ハイ上がりの周波数特性になる。
- FuzzFaceは波形がクリップしていないボリューム5以下の領域でも、豊かな倍音が付加されている。これが鈴鳴りサウンドと思われる。
- FuzzFaceはボリュームをやや絞った辺りが美味しいFuzzサウンドになる。
- FuzzFaceはボリュームのコントロールで、鈴鳴り、クランチ、ディストーション、Fuzzの音を作り出すことが出来る。
いかがでしょうか?
このようにLTspiceのシミュレーションでまずは理想のFuzzFaceについて少し理解できたような気がします。
Fuzz Faceはギター側のボリュームコントロール次第でクリーンから様々な歪みを作り出すことが出来るペダルなのが理解できましたが、ジミ・ヘンドリックスのような天才が凄いのはこんなシミュレーションや理屈では無くFuzz Faceを使いこなしてしまったということですね。
逆にFuzzFaceよりも、BigMuff、RAT、TubeScremerのような安定しシンプルな音で一貫性があるペダルの方がロックの歴史に登場した回数が多いのもうなづけることです。
しかし、近年FuzzFaceクローンペダルが数多く登場し、その価値はうなぎ上りだと思いますし、前回もご紹介させて頂きましたが、例えば村田善行さんの素晴らしいFuzzFace検証記事や動画がアップされたことで、更にFuzzFaceへの注目が集まっているのだと思います。

そんな一方で、あまりにも人気が出てきた為、ゲルマニウムトランジスタの資源問題が発生している現場ですので、今こそFuzzFaceを押さえておくべきだと思います。
ジミヘンはシリコンFuzzですが(^^