シミュレーションで学習:TS808の回路はどう動いてあの伝説のサウンドを作り出しているのか?
ここ最近YouTubeでJanRayの話題を見させていただき興味が出て来たので前回の記事ではそれをシミュレーションしてみたのですが、更に興味が出て来た(^^ので、その原点であるIbanez Tube Screamer TS808から勉強してみることにしました。
TS808のシミュレーション回路
ネット経由で入手した情報を元にして、TS808相当の回路を起こしてみました。
ただし、シミュレーションに用いたダイオードと半導体類は全く同じものではありません。(そもそもシミュレーションなのですが^^)
- オペアンプ NJM4558 (JRC4558)
- トランジスタ 2N2222
- ダイオード 1N4148
下の回路図に付けている①〜④の番号はTS808の回路でキーポイントになりそうな部分です。
また、今回は純粋に回路の特性を知る為に、ギター側の回路とアンプ側の回路は付けていません。
但し、TS808は入力と出力共にトランジスタバッファが付いていますので、ギターとアンプのインピーダンスからの影響は最小限ですので、傾向は判ると思います。
TS808のゲイン-周波数特性
下のグラフの
青線がTS808のツマミを全て12時にした時の周波数特性です。
赤線が4558初段のオペアンプからの出力時の周波数特性です。
まず初段は①のコンデンサーと抵抗によって低域側の増幅率を低下させています。その結果高域側が大きく増幅されています。
次に②のコンデンサーで、4558の2段目に入る時の高域をカットしています。
更に③のトーン回路は中高域に作用しているようです。
このように、TS808は初段のクリッピングダイオードでは高域側を歪ませ、後段で耳障りな高域を削って帳尻を合わせている回路ということですね。
TS808のゲイン特性
TS808のOVERDRIVEつまりゲイン抵抗はAカーブが採用されていますので、12時=GAIN5の抵抗値は15%としてシミュレーションしています。
ゲインを上げるに従って500Hz以上を大きくゲインが掛けられてています、また②のコンデンサーが強力にハイカットとして作用しますので、結果800Hzを中心として大きなカマボコ型になる周波数特性を示します。
TS808はゲインを絞ってブースターとして使われることが多いようですが、以下2つの理由が考えられます。
- ゲインを上げると、カマボコの山が大きくなるのでクセが強くなる。
- クリーンを出そうとギターのボリュームを絞っても、高域が無く抜けない音で、更に低域もカットされているのでショボい音になる。
また、④の51KΩ抵抗があるため、回路的にはゲインはある程度大きいままで、ツマミを0にしても若干クリッピングしている状況となります。よって完全にクリーンなサウンドは出ません。
TS808のトーンコントロール特性
トーンツマミを0、5、10にした時のシミュレーション結果です。
トーンが0の時はギターの6弦や5弦の基音となる500Hzあたりに山が来ていますので、ちょっと暗い音になりそうですね。
トーンを上げるとピークの周波数も上がりマックスにすると1.8Khzあたりがピークになるようです。
いずれにしてもTS808はそもそもカマボコ型の周波数特性ですのでトーンの効きも周波数特性的にはマイルドな感じではありますが、トーンを上げるに従って信号もブーストされるのも注目です。
つまりトーンを上げるとアンプ側で中域のプッシュによりアンプ側での倍音が発生して来るものと思われます。
TS808を美味しいセッティングにするとどうなるのか
ということで、OVERDRIVEを抑え気味、TONEを挙げ気味、LEVELもプッシュ気味でシミュレーションしてみました。
赤線が全てツマミを真ん中に下時に対して中高域をブーストするようになっています。
下が、出力波形です。すいません、上のグラフと赤と青が逆てんしてしまいましたorz
TSの回路は代表的なソフトクリップと言われるオペアンプの帰還にダイオードを挿入したものですが、このように緩やかに波形を変形させます。
よくネットの説明では波形の上下バッサリと説明されている場合があるようですが、実際は緩やかに波形を変形させるということで、正にソフトクリップということですね。
それをFFTしたのが下のグラフ。
1KHzの入力に対して、3KHzの倍音が発生していますので、3次倍音が発生する典型的な回路となります。
その上の5次倍音は音量的に低いので、TSの基本回路は3次倍音を付加する回路と言えると思います。
FuzzFaceやToneBenderが2次倍音からリッチに発生させるのに対して随分淡白な歪みですね。
TS808回路まとめ
- 三次倍音が主となる淡白な歪みなので単体では物足りない。
- Fuzzのように暴れなく安定しているが、ソフトクリッピング回路なので深い歪みは作れない。
- 中音を大きくブーストする周波数特性なので、レスポールなどでは更に甘いサウンドになる、ストラトのような高域にピークのあるギターの方が相性が良いと思われる。
- 低域をカットしているので真空管アンプで歪ませても潰れないサウンドになる。高域をカットしているので耳障りにならない。
- ギターのボリュームを絞っても、抜けるクリーンサウンドは出ない。(JanRayのようなトランスペアレントと違うところ)
- トーンコントロールは周波数特性とブースト量の両方をコントロールしているので設定がキモとなる。
ということで、TS808はSRVがサウンドメイキングを確立したように、ストラトを高出力アンプに気持ち良くプッシュする為のペダルというのがシミュレーションでも判ると思います。
TS808とTS-9は基本同じ回路のようですが、オペアンプの違いでサウンドが違って来るとも言われています。
ただ、更にシミュレーションを細かくして行くと①〜③のコンデンサと抵抗の値を変化させる方がモロサウンドが変化すると思われますので、自作される方も頑張ってください(^^
あと、前段のバッファはサウンドにかなり影響があるようなので、トゥルーバイパスにする場合この初段のトランジスタを外す場合は、その他の部分の定数も変える必要がありそうです。
追記>ライバルとなるBOSS OD-1もシミュレーションしてみました。
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