シミュレーションで学習:名機中の名機 BOSS OD-1の回路の非対称クリッピングはどう動いているのか?
前回は、名器Ibanez TubeSrremer TS-808をシミュレーションしてみました。
ならば、もう1つの日本が生み出したオーバードライブペダルのレジェンドのBOSS OD-1をシミュレーションで確かめてみたいと思います。
OD-1のシミュレーション回路
下がOD-1っぽい回路、、、ビンテージオペアンプとか、トランジスタはシミュレーションのライブラリデータにないので、今回もこのパーツで組み立ててみます。
- オペアンプ NJM4558 (JRC4558)
- トランジスタ 2N2222
- ダイオード 1N4148
まぁシミュレーションなので、音のニュアンスまで再現できるわけではありません。
が、逆に言えばTS808とOD-1をパーツを同じにするとどうなるのか?という比較にもなるのかと思います。
下がシミュレーションに使った回路図。付けている①〜③の番号はOD-1の回路でキーポイントになりそうな部分です。
OD-1の周波数特性
下のグラフの
青線がOD-1のツマミを全て12時にした時の周波数特性です。
黄線が4558初段のオペアンプからの出力時の周波数特性です。
赤線が4558初段のオペアンプに入る前のバッファ+カップリングコンデンサを通過した後の周波数特性です。
①のコンデンサも容量が小さくModポイントになるかもしれませんが、この結果を見ると低域がカットされる影響が出るのはほんの僅かです。
計算上は100Hz以下で数dB低下するのですが、それよりも②のコンデンサによるゲイン低下の影響が大きいです。
ただ、この僅かな違いが実際の音作りには影響があるのかもしれません、、、
この結果からすると他の定数が決まった後の最後のチューニングになるかもしれませんね。
②は低域の増幅率を抑えています。TS808を同じ定数なので低域は同じ周波数特性になります。
この値が、その頃のオーバードライブの黄金比と言えるのかもしれませんね。
次にTS808はオペアンプ2段目のローパスコンデンサで高域をカットしていましたが、OD-1ではオペアンプ帰還回路内③のコンデンサがその役割です。
おっと、書き忘れましたが、TS808が1段目と2段目両方が負帰還回路なので、結果入力と出力の位相が変わりません。がOD-1は1段目が負帰還、2段目が正帰還の回路なので入力と出力の位相が逆転します。
ローパスコンデンサの使い方もこのあたりが関係してくるのかもしれませんね。
OD-1のゲイン-周波数特性
TS808はゲイン調整用のポットにAカーブ抵抗が使われているようですが、OD-1はリニアなBカーブのポットです。
しかし上のグラフはdB表示ですので、対数になりますのでこのようにグラフ上はレベル5=12時とマックスの差が小さいようにも見えますね、、、
いずれにしてもTS808と同じく、OVERDRIVE=ゲインを上げると共に中域をより大きくブーストするようになり、音にクセが付きますので、OVERDRIVEのツマミほそれほど上げないのが良いのかもしれませんね。
OD-1の実際のセッティングにするとどうなるのか?
で、OD-1はトーンコントロールがありません。
よってTS808のようにトーンによるニュアンスの付加が出来ないです、BOSSの頑固さが伝わって来ます(^^ね
なので一応、OVERDRIVEツマミ抑え気味=10時くらい、レベル上げ気味=3時くらいで出力波形とFFTをシミュレーションしてみました。
このように入力信号に対し、OD-1の回路は出力の音量は稼げないようですね(^^
これは2段目の負帰還回路がゲインよりもバッファ的なブースターの役割になっているのかと思います。
で、やや非対称クリッピングしているように見えます。
そこでFFTしてみました。
このように、偶数次の倍音も発生しているようにみめます。
TS808のFFTが三次倍音から発生していましたので、やはりこれは非対称クリッピング回路のおかげなのでしょうか?
検証してみます。
OD-1の最大の特徴である非対称クリッピングについて掘り下げてみた
これまでのシミュレーションは入力を500mVで行なってきましたが、それよりも低い、1mV、10mV、100mVで検証してみると面白い結果が出てきました。
結果をより見極める為に1段目オペアンプ直後の出力を見てみます。
入力1mVで殆ど倍音が発生していません。
そして10mVになると2次倍音と3次倍音が明確に出始めました。4次倍音も出ていますのでこの領域で非対称クリッピングによる偶数次倍音が発生するモードになっていると思われます。
この領域で1本のダイオードが片側をクリッピングし、もう片方の2本直列のダイオードの方がやっと仕事をし始めた段階だと思われます。
ここが偶数次倍音を発生させるポイントということだと思います。
更に入力が100mVになると3次倍音の方が目立っ来ることになり、TS808のようなオーバードライブサウンドになるということです。
クリッピングダイオードを1本外して対称にするとどうなるのか?
更に、BOSS OD-1の非対称クリッピングのダイオードを1つ外して対称クリッピングにするとどうなるのかを見てみました。
上の回路が非対称クリッピング、下の回路が、ダイオードを1本外して非対称クリッピングに下回路です。
このように明らかに、非対称クリッピングで偶数次倍音が出ることが判りました。
皆さんも真空管アンプが出す気持ちの良い歪み音は偶数次倍音が存在するということをお聞きしたことがあると思います。
OD-1はBOSSがこの偶数次倍音を発生させるべく設計した回路ですので正にそれがシミュレーターにも現れて来たのが面白いです。
そして、FuzzFaceや、ToneBenderのようなゲルマニウムトランジスタをオーバードライブさせる回路は、有無を言わさず偶数次倍音が出まくるのとはここがオペアンプの歪み回路と違う激しいながらも暖かいサウンドと呼ばれるところかと思います。
BOSS OD-1はそんな偶数次の倍音をオーバードライブとして出す為に作られたペダルということですね。
まとめ
- BOSS OD-1の特徴である非対称クリップは、ある特定の入力領域で真空管っぽいと言われる偶数次倍音発生するのでそこを中心に使うと、ニュアンスが出しやすい。
- それ以上に入力させたりゲインを上げて歪ませ過ぎると偶数次倍音が消えて美味しく無い。
- よってOD-1の前にブースター系のペダル置いても美味しくない。(TSと変わらない)
- 出音の出力が低いのでTS808のようなブースターとして使い難い。アンプをプッシュさせるには後段にブースターを付ける方が良い。
- TS808とほぼ同じ周波数特性を持っているので、結局ブースターとして使うにはTSの方が向いている。
TS808が真空管アンプをプッシュさせるという役割でオールマイティで使えるのに対し、BOSS OD-1は美味しい歪みが発生するポイントが狭いという特性を持っているのでピンポイントな使い方をするペダルのようです。(但しあくまでもシミュレーション上ということになるのでご留意ください)
更に歴史を顧みて面白いと思ったのがTS808、OD-1の後に、TS系のブティックペダルが市場に出現しまくり、更にそれが進化して行く過程で、OD-1を見習った非対称クリッピングモードも追加されたものが多数出て来たと思います。
やはりこの2台の名機は外せないオーバードライブサウンドということになると思います。
TS808とOD-1は最もシンプルなオペアンプによるソフトクリッピング回路を創造しましたが、以降のオーバードライブなギターサウンドを作って来た誇るべき名機と言うに相応しいペダルということですね!
いずれも日本の会社で設計されたのもすごいです!