シミュレーションで学習:Paul Cochrane Timmy はOverDriveの基準となるすごい回路だった
Paul Cochrane Timmy OverDriveの回路
今回もネットに転がっていた回路図をもとに、JRC4558オペアンプでシミュレートしてみます。

Timmyの回路の特徴は、
- TSのトーン=トレブルにベースコントロールを加えた。
- クリッピングダイオードが上下2本の4本構成に。
- 前後のバッファトランジスタが省略されている。
という感じです。
TS808は電子スイッチを安定動作させる為に前後のトランジスタバッファがつけられてたと思いますが、トゥルーバイパスにしてバッファを省略できたFullDriveには残されています。
バッファの有無でサウンドが変わるのは確認できますので、FullDriveはTSの進化版としてそのまま残す判断をしたのだと思います。
しかしTimmyはこれらの無駄?なパーツを外してTSを再設計したということかもしれませんね。
この動画でTimmyの本当の使い方が解った
で最初、この回路をシミュレーションしていたら、どうも掴みどころが無いというか、美味しい使うポイントはどこなんだろう、、、、探りまくっていたのですが、そのヒントになったのがこちらの動画。
そうです、ギター機材界のレビューといえばこのお方、フーチーズの村田善行さんがデジマートでTimmyをレビューされた動画です。
でTimmy OverDriveのBassとTrebleが右に回すとカット(ローカット、ハイカット)されるということです。
そして一般的なBassとTrebleトーンコントロールとは逆回転、しかもカットって???
つまりがツマミはゼロの位置が基本ポジションになるということだったのです。
ということで村田さんのお言葉を信じて、BassとTreble共にゼロ(つまり最大)にしてシミュレーションしてみると、、、、、、、
TimmyのTreble=0とBass=0でシミュレートするとなんと!
なんと!このように、ほぼ完全なフラットの周波数特性が出て来ました。

これには驚きました。
TS系の基本が中域ゲインをブーストする回路で、FullDrive2でもは低域と高域のレンジをやや広げられたとは言え同じミッドブースト回路です。
更にFullDrive2 MOSFETでも少しレンジを広げた回路でしたが、これもトーンをどの位置にしてもミッドレンジブーストの周波数特性となっていました。
が、Timmyはベースコントロールとトレブルをゼロ(つまりフルブースト)にすると完全にフラットになるということが判りました!
そこからハイとローのコントロールを歪みのゲインに合わせて追い込んで行くということですね。
また、回路図を見た時に、トーンコントロールにAカーブのポットが使われているのも不明でした。
というのも、一般的なペダルはツマミを真ん中にするのがオススメという回路になっていますが、Aカーブだと中間的な抵抗値が難しくなって来るからです。
それがまさかツマミを0から開始するなんて思っていませんでした。
0からスタートするのはAカーブが使えるということですね。
これは、ペダルデザイナーのPaul Cochrane氏が、完璧な定数計算によって設計した回路であることが判ってきたような気がします。
TimmyのBassツマミの周波数特性
Bassのコントロールを上げて行くとこのように大胆にベースがカットされます。(というか回路的にはブーストしている状態から、ブーストを下げるということですが)

TimmyのTrebleツマミの周波数特性
次にトレブルのコントロールはこちら。

トレブルを下げると、高域を減衰させるというより、カットオフ周波数を可変させて、従来のTS系のカーブを作り出すという感じですね。
そしてつまみを中点にするとTSのような周波数特性にな流ということですね。
TimmyのGainツマミによって変化する周波数特性
そしてゲインアップ時も秀逸です。

波形を見るとゲインアップするとすぐにクリッピングが開始されます。
そして周波数特性を見るとツマミが中間までフラットで、それ以上では中域をブーストするようになります。
歪み系を作る際に低域を歪せると、潰れたサウンドになります。
一方で、高域側を歪ませるとやたら耳に付くサウンドになります。
よってこのように歪みを上げるに従い中域をゲインアップするのは理に適っていると思います。
Timmyのゲインと周波数分布FFTの関係を見ます
ゲイン=0で周波数分布FFTを見ると、倍音はまったく存在しません。つまり、クリーンブーストです。

そしてゲインを少し上げると安定した3次倍音が出てきました。これはTS系の特徴ですね。

更に少しゲインを上げて行くと5次倍音、7次倍音が追加されます。

更にサウンドにきらびやかさが追加されることになります。
また、ここまでのゲインでは周波数特性はフラットですので、サウンドは奇数次の豊かな倍音によって更にエンハンスされたものになります。
そしてゲイン=MAXにすると、更に複雑な倍音が増加すると共になりますが、ミッドレンジがブーストされていますのでそれほど耳障りな音にならないと予測できます。

Timmy秘密の非対称クリッピング動作
さて、Timmyの回路にはもう1つ特徴があります。下のシミュレーションはギターのボリュームを上げた時、更に強く弾いた時を想定しています。

このように大きな入力では非対称クリッピグを開始するということです。
大入力での通常のオペアンプ回路のようにいきなりバリバリと歪むのではなく、まず真空管のように半分だけ歪み始めるということで、非対称クリッピングによって二次倍音が出て来るのです。
つまりピッキングを強くすると、真空管のような一瞬のコンプレッションが発生するということですね。
そして擬似的にヘッドルームが広がったような感じにもなるかと思います。
Timmyの3つのクリッピングモード
Tummyにはクリッピングモードを変更するトグルスイッチが設けられていますので、こちらもシミュレーションしてみます。
トグルスイッチの役割はこう説明されています。
- ミドルポジション=基本のクリッピング
- ダウンポジション=コンプレッションを強めたクリッピング
- アップポジション=非対称クリッピング
まずはクリッピングモードをミドルポジションでは4本の対象クリッピングダイオード回路が使われます。

クリッピングモードをダウンポジションにすると、TS808と同じ2本のダイオードによるクリッピング回路になります。
オーバードライブ的にまぁまぁ歪んだクラシックサウンドということですね。

次にクリッピングモードをアップポジション。非対称クリッピング回路にすると、これはまさにBOSS OD-1の回路と同じダイオードクリップになります。当然下のFFTのように偶数次倍音がたくさん付加されることになります。より暖かい感じのクラシックサウンドということになると思います。

Paul Cochrane Timmy OverDriveシミュレーションまとめ
- TrebleとBassトーンコントロールは0から開始するのが基本、このセッティングでフラットブースターになる。
- TrebleとBassツマミを上げていくと、高域と低域のゲインが下がり従来のTS系の周波数特性になる。
- Gainは真ん中まで周波数特性はフラット。この領域がトランスペアレント系のサウンドとなる。それ以上はミッドブーストされたTS的になる。
- ピッキングを強くすると真空管のような非対称のコンプレッションが発生する。
- クリッピングモードをダウンでTS808/TS9と同じソフトクリッピングになる。
- クリッピングモードをアップで、OD-1と同じ非対称クリッピングになる。
Timmyすごいですね、、、、Paul Cochraneさんは数値的に完璧な計算をしてTS回路をリファインしたに違いありません。
また、TS808にもOD-1にもなるクリッピングモードを備えていますので、もうトランスペアレントなクリーンブースターから様々なオーバードライブサウンドを作れるのです。
ということでTimmyは1台所有しておくとオーバードライブサウンド作りの基準として使えるペダルでは無いかと思います。
ただ、最大の欠点は、トーンコントロールやゲインの動きと、TS系の周波数特性の特徴を知った上で使わないとどうセッティングして良いのか解らなくなる点では無いでしょうか?
私は冒頭の村田さんの説明を聞かないと、謎の個性的な操作系を持つペダルという認識になってしまったと思います。
但し、あくまでもシミュレーション上ですが(^^
皆さんも自作してみます。基板売っているようですし、、、、
|
|