【FuzzFace/TS808 2in1ペダル葛西ブルーズドライバー2への道】(その3)FFとODの歪みの違いを探る編<どっちが前段?
葛西ブルーズドライバー初号機のあらすじ
葛西ブルーズさんが作ろうとしたペダル『葛西ブルーズドライバー』のコンセプトはOverDriveとFuzzを2in1にすることで、ペダル1台だけでセッションに持っていける歪みペダルということです。
そして当初葛西ブルーズさんが2in1に入れるペダルとしてで選んだのはTubeScreamer(TS-808回路)+FuzzFace回路でした。
しかし、残念なことにその素晴らしいコンセプトの制作をビルダーさん依頼されたのですが、FuzzFace側の基板の問題がありそれが実現されていなかったというのが前回までのお話になります。
そして、FuzzFace側の空き地に我がCabaFace(FuzzFace回路)の基板を僭越ながら入れさせて頂けることになりましたが、ふと疑問に思ったのが、FuzzFace > TS808の順番がベストなのか?ということです。
ネットでFuzzFaceとTSの併用を検索してもそれほど多くの情報が出てきません。
一方でFuzzFaceはギター(しかもストラトなどのシングル)から直結するのが良いとされていますので、もし同時使用するのであれば前段にFuzzFace後段にTSということになると思いますが、こちらのThe Effector Bool Vol.39のチューブスクリーマー相性診断 連動動画で各種歪ペダルの前後にTSを繋いだ時の動作を検証されているのがとても参考になります。
で、TSを後段に接続するとTSのイコライジング(ミッド集中)の影響を強く受け、各歪みペダルの個性が削り取られてしまうように聞こえました。(個人的感想です)
ただ、FuzzFaceだけは、前に接続しても後ろに接続しても相性が悪いというか、、、、特に、FuzzFaceの前にTSを接続するとピッキングニュアンスが無い完全な飽和状態になってしまうようですね。(究極のFuzzと言えるかもしれませんが)
この結果を見る限り、もうFuzzFaceを前段にしろよということになるかもしれませんが、逆に言えば、いずれにしても同時使用は厳しいという現実は変わりません。
そして、改善の余地があるとすれば、FuzzFaceの入力にバッファを組み合わせて後段に配置する方です。
これの確証を得る為に、TS808とFuzzFaceの歪をまずはシミュレーションで検証してみることにします。
シミュレーション回路の準備
TubeScreamerとFuzzFaceの回路を準備、ギターのPU、ポット、シールド相当の電気特性の回路も接続します。
でテスト方法は以下のようにします。
- クリッピング特性・倍音特性 → 1Khzの信号レベルの大きさを変化させます
- 周波数特性 → 信号レベルは同じでギターのボリュームを変化させます。
出力波形の比較
TubeScreamerの出力波形
入力信号が青で、TS808の出力信号が赤です。
TSの回路は入力信号が大きくなっても完全飽和すること無くコンプレッションされながらも音量に追従するのが特徴です。
これはオペアンプのゲインがクリッピングダイオードによって制限されるソフトクリッピングの動作ですね。
FuzzFaceの出力波形
こちらも入力信号が青で、FuzzFaceの出力信号が赤です。
こちらは波形の上下がバッサリと切り取られる飽和が起こっていますね。
TSと違って飽和後は入力レベルが上がっても出力レベルは圧縮されてほぼ一定になります。FuzzやDistortionの歪波形ですね。
そして飽和前と飽和後では波形が全く別物になりますので倍音成分も違って来るということですね。
TubeScreamerとFuzzFaceの出力特性を並べてみる
こちらが、上の波形から入力に対してのどのような出力になっているかの増減を(ある特定の事象で)纏めたイメージです。
TSは入力に対してクリッピングが発生するタイミングが早いですが、その後は入力レベルが程度音量に反映されるイメージ。
クリッピングによる歪みが発生しながらもボリュームコントロールやピッキングは出力レベルに反映されるということですね。
一方のFzzFaceは最初は入力レベルにリニアに反応しますが、ある敷地でいきなり飽和が始まります。
このFuzzFaceの動作に関しては最新のEffectorブックにも詳しく説明されていますので参考になるかと思います。
倍音特性
TubeScreamerの倍音特性
1Khzの正弦波の入力レベルを変化させています。
見事に3Khz、5Khz、7Khzの奇数次の倍音が綺麗に発生していますね。
そして入力レベルを変化させてもその倍音構成も同時に並行移動していますね。
倍音特性に関しては音量変化やピッキングコントロール変化しない、単調な特性と言えると思います。
FuzzFaceの倍音特性
偶数次倍音と奇数次倍音の両方が出ていますね。
そして前述のリニア領域では2Khzの二次倍音が多く発生しているのに対し、飽和領域になると奇数次倍音の割合が逆転して増加するということですね。
これは、初段のトランジスタが主に偶数次倍音を発生させ後段のトランジスタで完全に飽和させるという動作に由来すると思います。
つまり、Fuzzはリニア状態と飽和状態の間を推移する際にピッキングのニュアンスや音量の変化が倍音構成として変化することで表情豊かな音が出ることになっていると考えられます。
よくできたFuzzFaceは真空管アンプに近いという人もいる
真空管アンプが歪む場合プリ部が歪んでいる音なのか、パワー部が歪んでいる音なのかという話も出てきます。
一般的な真空管ギターアンプの回路ではプリアンプの方がより多くの偶数次倍音を発生し、パワーアンプのほうが奇数次倍音をより多く発生すると言われています。
これはそれぞれの三極管、五極管の特性から来るようです。
で、今回のFuzzFaceの回路とその倍音特性と見ると前段と後段のトランジスタの役割は当に真空管アンプのプリ管とパワー管であり、それを歪ませた時の倍音発生パターンも同じ仕組みになっているとも言えると思います。
良くギターのボリュームに追従する優秀なFuzzFaceの歪は真空管っぽいとか真空管アンプを歪ませるとFuzzみたいになるという方もいらっしゃいますが、回路特性としてもそれは説明出来ると思います。
TSは真空管アンプを邪魔せずプッシュ出来る特性
TubeScreamerが単体では真空管の歪みとはかけ離れているということを良く耳にしますが、これは歪によって真空管のような偶数次倍音の発生が無く奇数次倍音のみ発生しているという特性から来るものだと思います。
それ故にTubeScreamerの名の通り真空管アンプをプッシュする為のペダルだと考えられます。
TSによる奇数次歪みでブーストすることでアンプ側で発生する偶数次/奇数次の倍音発生パターンを邪魔しないということ、また、飽和して音を潰すことなく適度に音量をコンプレッションするという特性によって真空管側で一気に歪ませずスムースにプッシュする役割があるということだと思います。
TSとODの周波数特性の違い
1Khzの正弦波が発生しギターのボリューム2あたりから10に変化させています
まずギターの周波数特性
当ブログでは既に検証しておりますがこちらがギター+シールドの周波数特性です。
ボリュームを最大での高域に発生しているピークはLCR共振が発生しているということですね。
今回の記事のお話から離れますが、この現象を利用されボリューム音色でコントロールされるギタリストはボリューム5~8くらいを定位置にされているようですね。
一方でボリューム全開が定位置の方はボリュームを絞ると音痩せするという感覚になることから、ハイパスコンデンサやスムーステーパー/トレブルブリードなるものが欲しくなるということだと思います。
TubeScreamerの周波数特性
OVERDRIVE及びTONEノブを中間値にしてギターのVolを変化させています。
ギターのVolが最大の時に、前述のギター側回路のLCR共振の名残がでていますが、基本的にギターのボリュームに影響されない一貫したミッドレンジブースターと言えると思います。
TubeScreamerのTONEノブを変化させた時の周波数特性
TONEノブMIN(赤線)/中間(青線)/MAX(黄色線)でプロットしたのがこちらです。
TONEを絞ると500Hzあたりからハイカットされるようですね。それより下のロー部分は同じようなローカットですので、やはりTSはローカット&ハイカットの極端なイコライジングされていますね。
ちなみに真空管アンプをフラットなブースターでプッシュすると、ロー側は音圧が強くなりハイ側は倍音の増加で痛い音になると思いますが、このTubeScreamerの周波数特性はそれらの帯域をカットしてブーストすることで、心地良い真空管アンプの歪を生む為のペダルでもあると言えると思います。
FuzzFaceの周波数特性
Fuzzポットの抵抗値を中間値にしています。
ギターのボリューム7位までフラットな周波数特性ですね。FuzzFaceが他の歪むペダルとは違う大きな特徴です。
そしてボリュームを9から10にすると急激にローブースト状態になります。
これもFuzzFaceの特徴ですが、これを理解しないで常にギター側を全開にしてFuzzFaceを試奏されるとめっちゃブーミーという感想になるかと思いますので注意しましょう。
FuzzFaceは単純なトランジスタ増幅回路ですので基本フラットな周波数特性を持つ回路ですので、周波数特性の方も真空管ライクであると言えると思います。
TubeScreamerとFuzzFaceの特徴まとめ
クリッピング波形、倍音特性、周波数特性をまとめるとこんな感じになります。
- TubeScreamer
- ピッキングニュアンスを音量の違いで表現出来る。
- 歪みは奇数次倍音で構成される。
- コンプレッション、倍音、周波数特性共に真空管アンプ側の特性を引き出しプッシュする為の特性を持っている。
- FuzzFace
- ピッキングニュアンスを倍音の構成の違いで表現出来る。
- 歪みは偶数次と奇数次倍音で構成される。
- 歪みの倍音特性も周波数特性も真空管アンプライクであるがあるが一気に飽和してしまう特性である。
葛西ブルーズドライバー2でTubeScreamer>FuzzFaceの順番にする理由
結局、葛西ブルーズドライバーは、前段がTubeScreamer、後段がFuzzFaceで為してみることにしました。
- TubeScreamarを後段にすると、FuzzFaceの飽和で音量が一定になるのでTSの良さ(音量表現)が出てこない。
- TubeScreamerを前段にすると、音量変化をFuzzFaceに伝えることが出来るのでうまくセッティングすれば飽和前後の倍音の変化も楽しめる。
- TubeScreamerを後段にすると、有無を言わさすロー/ハイカットになるのでFuzzFaceのフルアップでのブーミーさとボリューム絞った時の鈴鳴りの特徴が薄れる。
- FuzzFaceを後段にするとTSのミッドが豊富な特徴を活かしながらハイとローそして偶数次倍音と奇数次倍音を発生させることが出来る。
- FuzzFaceを前段にすると、FF(偶数次倍音→奇数次倍音)→TS(奇数次倍音)→AMP(偶数次倍音→奇数次倍音)で、FFとTSの奇数次倍音発生の役割が被る。
- TubeScreamerを前段にすると、TS(奇数次次倍音)→FF(偶数次倍音→奇数次倍音)→AMP(偶数次倍音→奇数次倍音)で綺麗に偶奇偶奇偶奇という順番になる(^^)
p.s. 偶数次倍音と奇数次倍音の違いは何なのか?
最新のEffectorブックでも説明されていましたが、倍音を平均律でCを基音として周波数で表すとこのような感じになります。(こちらのサイトを参考にしました)
- 基音 C5 1046.502Khz
- 二次倍音 C6 2093.005Khz オクターブ
- 三次倍音 G6 3135.963Khz +5度
- 四次倍音 C7 4186.009Khz オクターブ
- 五次倍音 E7 5274.041Khz +3度
偶数次(二次、四次)倍音は同じCのオクターブの関係音程感を保つ気持ち良い倍音ですが、奇数次倍音(三次、五次)の方は基音と異なる成分が発生することで音が暴れた感じの音になるということだと思います。
ということで、長くなりましたが、冒頭のEfector Book の動画にもあるように、そもそもFuzzFaceの前にTSを繋ぐと制御不可能なサウンドになるという問題をヴァッファをつけることで解決することにチャレンジしようかと思います。
続く、、、、
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