シミュレーションでお勉強:ProCo RATのハードクリッピッグ回路には色々秘密があった!(追加研究もあるよ)
前回、MXR Distortion+ から始まったオペアンプ+ハードクリピングの歴史を振り返ると共に、シミュレーションをして見ました。
MXR Distortion+ はまさにオペアンプの安定した特性を利用したフラットなゲインブーストを行い、ダイオードでハードクリッピングするという王道のディストーション回路ということが判りました。
ProCo RATのハードクリッピング回路を作ってみた
そして、次のテーマとしてJHSの動画で紹介されていた通り、MXR Dsitortion+の次に世界を席巻したディストーションエフェクターであるProCo The RATをシミュレーションしてみようかと思います。
RAT回路を見ると、MXR Distortion+と同じように通常のハードクリッピングダイオードによる典型的なディストーションエフェクターであることが読み取れます。
で今回の回路のオペアンプはLM308、ダイオードは1N914で、オリジナルと同じ型番ですが、最後のFETはオリジナルの2N5458とは異なりライブラリあった2N5432で代替しました。
が、このFETはバッファ回路ですので、シミュレーション結果では変化が出て来ないと思います。
ただ、自作派の方々はこのFETが違うとProCo RATの音が再現出来ないと言われていますので、実際の聴感上のニュアンスって大切なんですね。
ProCo RATの周波数特性を調べる
このProCo Ratの回路をいろいろいじっていた時に気になったのは、FILTERとDISTORTIONが影響し合っているということです。
なのでDISTORTIONツマミのポジションを10、7.5、5、2.5、1、0で変化させてシミュレーションして見ます。
DISTORTIONをMAXにしてFILTERを0から10に変化させてみた
800Hzを頂点とした鋭角なピークが見れます。強いローカットとハイカットがかけられていますね。
なのでFILTERノブを下げ(ProCo Ratは逆回転ですが)てもこのピークは保たれたままで、それ以上の周波数が急激にカットされているのが面白いですね。
DISTORTIONを75%にしてFILTERを0から10に変化させてみた
すると、ピークが1KHzまで上昇していますね。
やはりDISTORTIONツマミもイコライジングに影響するということですね。
DISTORTIONを50%にしてFILTERを0から10に変化させてみた
次に、DISTORTIONを50%にしてみます。(ポットがAカーブだったら12時の位置ではありませんが回路的には半分の値ということです)
そうすると、ピークは更に高域に移動しています。
このようにProCo RATのDISTORTIONノブを下げるに従いやや高域寄りのブーストになるようです。
DISTORTIONを25%にしてFILTERを0から10に変化させてみた
ピークが2KHzあたりに移動するとと共に、カーブ緩やかになりました。
この周波数特性は、TS系などのトーンコントロールで見れる動きに似ていますね。
なので、この辺りから下はオーバードライブ的な歪みになるように思えます。
DISTORTIONを10%にしてFILTERを0から10に変化させてみた
するとピークが3KHzになり、更に緩やかなカーブになっています。オーバードライブペダル的ですね。
ということでこれらの動きは、オペアンプ側のローカット回路と、FILTERのハイカット回路の周波数がオーバーラップしているためだと考えられます。
DISTORTIONを0にしてFILTERを0から10に変化させてみた
オペアンプが増幅の仕事をしなくなり、FILTERのみ効いているという感じですね。
TS系だとよくOVERDRIVEを0にしてブーストという使い方をされますが、ProCoRatはそのような使い方は出来ないようです。
ということでProCo Ratは、DISTRTIONの値によってFILTERの効き方が左右されるということが判りました。
ProCo RATのあの鋭い音の秘密は、ある程度DISTORTIONを上げることで発生する強いピークを利用するというのがキモのように思えます。なのでDISTORTIONツマミは12以上は強烈なディストーション、12時以下ではオーバードライブ的な音作りに使えるように読み取れました。
ProCo RATのDISTORTIONを変えるとどのように歪みは変化するのか
次に、DISTORTIONツマミを変えて歪みがどう変化するかをシミュレーションして見ました。
FILTERはMAX(つまり位置は0で高域をカットしない状態)で、DISTORTIONツマミを0から10まで変化させた時の出力波形です。
ProCo RATはハードクリッピング回路なので、MXR Distortion+のように出力側のダイオードでバッサリ上下をカット、のように見えます。
なのでFFT(周波数分析)すると、MXR Distortion+と同じように2KHzの2次倍音(シミュレーションの周波数が1KHzなので)が出て来ないのは、やはりハードクリッピングディストーションの共通部分のようですね。
しかし、ここでちょっと気になることが出てきました。
それは、あまりにも早くクリッピングが発生していること、そして、出力波形がやや暴れているということです。
ProCo RATのクリッピングダイオードを外して見た
なので、思いついたのはクリッピングダイオードを外した回路をシミュレーションすることです。
その結果が以下の波形です。
上の図の左は、クリッピングダイオードを外した波形ですが、4Vあたりで完全にクリッピングされています。
これはオペアンプの増幅率がめっちゃ高く設定されていることから、DISTORTIONツマミが30%位からもう信号増幅が飽和し初めているということです。
つまり、普通DISTORTIONは3以上で使うことになりますので、常にオペアンプの飽和歪みが発生しているということですね。
そして右側はクリッピングダイオードを接続した波形ですが、600mVあたり上限でクリッピングすることになりますが、すでにオペアンプの歪みが乗っている状態ですね。
このように、ProCo RATは、ハードクリッピングのディストーション回路ですが実際はオペアンプを激しく歪ませていることになるの(オペアンプの飽和領域:これ以上増幅出来ない状態)で動作させていることが判りました。
MXR Disortion+のクリッピングダイオードを外して見た
では、MXR Distortion+ではどうなのかを確認して見ました。
左側はDistortion+の回路ハードクリッピングダイオードを外した状態での波形でDISTORTIONツマミが70%以上でオペアンプが歪み始めるということが見えます。
そして右側はクリッピングダイオードを接続した波形です。
このようにMXR Distortion+の通常使用状態はクリーンブーストされた音をダイオードでクリッピングされた音であることがが判ります。
ちなみにMXR Distortion+はIN34Aというゲルマニウムダイオードが使われますが、ゲルマダイオードのクリッピング電圧は低いのが一般的です。
つまりMXRはオペアンプのクリーンブースト状態を低い電圧でクリッピングするように、ちゃんと設計された回路になっているということですね。
一方のProCo RATはとにかく無茶苦茶増幅することで発生するオペアンプの飽和状態の歪み用いているということ(これはある意味オーバードライブかも)で、かなり乱暴な回路のようです。
ProCo RATシミュレーションまとめ
ProCo RATの回路は一見、普通のオペアンプ+ハードクリッピングによるディストーションペダルのように見えますが、かなり癖のあるディストーションペダルであることが判りました。
- FILTERの働きがDISTORTIONと干渉する。よってDISTORTIONを決めた後にFILTERを再調整する必要がありそう。
- DISTORTIONは12時まで上げることでRAT特有の癖のある歪み音になる。12時以下ではオーバードライブサウンド。
- オペアンプ自体を激しくオーバードライブ(飽和領域)で動作させているので、使われているオペアンプの種類がかなり重要になりそう。
いかがでしょうか?
ProCo RATはシミュレーションする限りですが使い方がちょっと難しいペダルのようですのでこれらの特性が頭の中に入れておくと分かり易くなるかもしれません。
また自作派の方は、ProCo RATはオペアンプを激しく飽和させていますので、その選択によってかなり歪みが違って来るような回路に見えます。
なので、ビンテージRATを再現するにはLM308のような、オペアンプ聡明期に開発されたものを選択するのと、より近代のオペアンプを選択するので音がかなり違うことになりそうなので、楽しんでみてはいかがでしょうか?
追記>このネタを夏休みの宿題にして自由研究してみました
YouTubeにアップされているProCo RATの動画で確認して見た
オリジナルのビンテージ ProCo The RAT – BigBoxの動画、、、めっちゃいい音出しています。これは素晴らしい!
更に、こちらは1991年にリイシューされたProCo The RAT – BigBox の動画。こちらもいいですがやはりちょっとモダンな感じがしますね。
そして、Benimaruさんの動画。やはりいつも通り的確なレビューされています。すごいですね。
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Formula B Elettronica ( フォーミュラ・ビー・エレットロニカ ) / RatRace
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